杳子・妻隠(古井由吉)

「あの本じゃないだろうな?」っと手にとった。 古井由吉、ああそうかも知れないとページを捲った。 やはりそうだった。 あの杳子(ヨウコ)だ。 どうしてこんな古い作品がと、まだ朧気に窺って帯を見てみると、「ピース又吉」という方の推薦だそうである。     yoko すぐに購入した。 大阪で万国博覧会が開催された年に発表された作品なので45年も経っているが、古びていないところに驚きを感じた。 昨晩、家に帰ってから読みはじめ、3時間と少しで読み終えた。 なんとも言えない余韻が残る。 この頃は未だ美しい日本語が残っていたんだなと思った。 「生活の発見会」という組織がある。 神経症で悩んでいる方々を、回復した方々との交流で支援する組織だ。 この本を数十年ぶりに読み返し、この組織のお手伝いをしているのも偶然でない、そんな感覚を覚えた。 古井先生の文章は濃密で何度も挫折するが、この本は初期の作品なので読みやすい。 読みやすいといえば、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」もピース又吉のリストに入っている。 日米安保反対!と、学生運動が盛んな時代の雰囲気を上手く汲み取っている。 有名な4部作もお薦めしたい。 庄司薫氏の名前は、ピアニストの中村紘子さんと結婚してから聞いたことがなかった。         学生運動で思い出す人がいる。 新宿区役所の近くに「いこい」という小さな小料理屋があった。 たまたま知人に連れられて常連に加えてもらったが、十分なお足も持たずウロウロしていると、「いま開けるから飲んでいきなさい」と、優しく声をかけてくれた。 ここの常連の一人が、後に直木賞作家となった中村彰彦氏で、当時は文藝春秋に勤めていた。 加藤さん(本名)によく学生時代の雰囲気を尋ねた。 あるとき酔っ払った加藤さんの自宅に上がらせていただいたことがある。 まだ2,3歳位のお子様も起きていたので、そんなに遅い時間ではなかったのだろう。 奥様が手料理をつくって下さり、加藤さんが新潟の日本酒を出してきて二人で飲んだ。 ちょうど「明治を駆け抜ける女たち」(清野真智子など数名)という本が出たばかりで、サインも頂き(酔っ払っているので、かなりきたない)、しかも当時、西武新宿線の西武柳沢という駅の反対側に住んでいたので、自転車を借りて帰った。 良い時代であった。
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