歴史を考えるヒント(網野 善彦)

紀伊國屋書店で久しぶりに網野氏の本を見つけ、さっそく自宅に帰って読んだ。  「百姓(ひゃくしょう/ひゃくせい)」という言葉から、主に中世と近代に変遷したいくつかの言葉をつかって日本の歴史を豊かに描き出していく労作だ。 歴史を考えるヒント 気になる点がいくつかあった。 「日本という国名が無かったのだから聖徳太子も日本人では無い」のだから、689年に浄御原令が施行された後に生きた人だけが日本人となる。たとえば、689年生まれの僕は日本人。それ以前に亡くなった父は日本人で無く、その後も生きた母が日本人となり、国際結婚したことになる。あれ、では僕は何人? それに、100年前、1000年前の中国人は何と呼べば良いのだろう。 「日本という国名も我々の意思で変えることができることを確認しておく必要があり、そのことを前提にしないで、ナショナリズムの主張はできないし、国際的視野も育っていかない」と氏は主張しているが、なにか大袈裟でちんぷんかんぷんだ。 「建国記念の日」に歴史家たちが、事実と確認できないため反対したことを述べているが、それでは米国の教科書に載っている建国の物語はすべて事実か? 中国はどうか? 韓国は? 解説で実名を出している「新しい教科書をつくる会」の関係者が、「日本」がいつできたかさえ知らなかったと批判されていますが、これは書くべきでなかったと思う。他者の批判は、氏が丹精込めて書き上げた書籍の品位を落とす。 ともあれ、「為替」や「切手」にまつわる話など、面白い話題も多く楽しく読めるはず。氏の深い洞察、日本や歴史に対する温かい眼差しに心が熱くなる。勉強になる本だ。
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